フィールドフォースには現在、千葉県柏市の本社に併設のボールパーク柏の葉のほかに東京・足立区、そして札幌、旭川の北海道2拠点、福岡県直方市と、5つの都市で室内練習場「ボールパーク」を展開している。6番目の拠点として準備が進んでいるのが仙台市。ボールパークはまだ準備中ながら、ひとりの社員が常駐し、営業活動を続けている。
ボールパークを仙台で!
ボールパーク事業部の鈴木崇良はボールパーク仙台(仮称)の責任者として、すでに仙台に転勤し、その業務にあたっている。まだ事務所もない仙台で、彼が取り組んでいるのは、学校訪問などの「外商」と、屋内練習施設を間借りして開いている野球教室「エースフォー仙台校」の運営と生徒の指導、そしてそれぞれ週に一度開かれる、全社定例会議と企画開発会議へのリモート参加だ。


学校や社会人チームなどのグラウンドを訪ねて営業を行う「外商」は、ピッチングマシンの納品やメンテナンスのために、担当社員がグラウンドを頻繁に訪れていたことから派生した、フィールドフォースにとっては、比較的新しい営業形態(⇒こちらを参照)。しかし、そもそもまだ拠点がない仙台だけに、顧客との対面販売という意味では、この外商が唯一の営業の形になる。多くのサンプル商品を積み込んだ社用のハイエースを駆り、鈴木は宮城県内はもとより、東北各県を飛び回る毎日だ。
「早くボールパークができてほしいのはもちろんですが、慣れてはきました」と鈴木。電話で訪問のアポイントを取り付ける「テレアポ部隊」は別におり、その結果を受けてのチーム訪問となるが、「すでにフィールドフォースの存在や、商品を知っていただいていたり、中には使っていてくれるところもあるのですが、もちろんそうでないところもあります。中学や高校なんかだと、そのあたりの違いが学校によってすごく大きくて、もう、日々勉強です」。
なぜか高校で授業をすることに…
10月初旬、外商での学校訪問をきっかけに知り合った、野球部顧問兼監督の教諭から依頼を受け、鈴木が学校で授業を行うことになった。
東日本大震災の経験と教訓を伝え、防災意識を喚起する震災伝承施設「南三陸311メモリアル」からもほど近い宮城県南三陸高校は、南三陸町志津川にある県立高校。普通科と情報ビジネス科があり、今回、野球部顧問でもある佐藤克行教諭が教える情報ビジネス科の2年生を対象に、週に2コマある「マーケティング」の授業として、「商品開発」をテーマに、鈴木が2コマ連続の特別授業を行うことになったのだった。

「野球部は現在、4人の3年生が卒部して、1、2年生4人での活動になります。鈴木さんに来校いただいたのは5月だったでしょうか」。佐藤教諭がにこやかに回想する。「もともと、私があれこれと工夫して練習したり、部員に教えたりすることが好きで、フィールドフォースさんの存在はもちろん知っていましたし、商品も使っていたんです。で、5月にご連絡いただいたときに、『あのフィールドフォースさんが? 学校に来てくれるの?』となって…」と経緯を説明する。

「なぜか、すぐに授業してくれっていう話になったんですよね」と鈴木。
「フィールドフォースさんといえば、いろいろと『痒いところに手が届く』商品を作ってらっしゃる。商品開発…これは授業になるんじゃないか、と」と佐藤教諭。「マーケティングの授業は、たとえば消費者の心理など、学んで面白い部分もあるんだけど、教科書を読んでいるだけでは、その面白さは感じられない。机上論で終わらず、身近なところで感じられると、いい勉強になると思っているんです」と今回、鈴木に声を掛けた理由を説明する。もちろん、そこには鈴木の実直な人柄も大きく影響しているのだろう。
フィールドフォースの商品開発とマーケティング
この日の授業で鈴木がテーマにしたのは、そのものズバリ「商品開発について」。自身が企画から商品化まで担当した「インサイドスウィングリング FISR-35S」を例に挙げ、商品の企画から会議でのプレゼンテーション、商品の試作、意見の集約などを経て再試作、商品化に至るまでを説明した。

今回、授業を行った情報ビジネス科の2年生17人には、野球部員はいない。決して身近な分野の商品とはいえないが、最初、佐藤教諭が「インサイドアウトって分かる?」と生徒たちに問いかけた後、ある生徒に「ちょっとバットを振ってみてくれる?」とお願いし、鈴木による商品の説明後、「もう一度、これを使って振ってみてくれる?」と、使用した場合との違いを実際に感じてもらうことで、生徒たちは商品の狙いを感じとった様子だった。

フィールドフォースの商品開発の流れを鈴木が説明する、前半の1コマ目を終え、後半は佐藤教諭と鈴木が対話する形で授業が進んだ。「フィールドフォースが次々と新しい商品を生み出すことができる秘密は?」「その中でヒット商品やロングセラーは?」「どんなところに開発のヒントをもらう?」「提案から商品が世に出るまでにはどれくらいの時間がかかる?」「これまでにヒットしなかったものは?」。佐藤教諭が次々と問いかけ、ホームページの商品ページなども参考にしながら、それぞれに鈴木が答えていった。
佐藤教諭は「フィールドフォースさんがすごいのは、常に新しいアイデアを取り入れて、ほかと違うものを作ろうという、発想の豊かさにあるんです」と生徒らに説明。基本的にNGがない、商品開発会議での自由闊達なやりとりや、提案から商品化に至るまでのスピード感には、多くの生徒が興味を持った様子だった。そして、「開発メンバーみんなで話し合い、商品に付加価値を加えていくんですが、あれもこれも付け加え過ぎずに、商品の本来の狙いを明確にすることも大切と思います」という鈴木の説明に、生徒らはうなずき、メモを取っていた。
ぜひ来年も!

授業が終わってみると、野球自体の知識はない生徒たちも、「誰かの発想や考えていることを、みんなんで話し合いながら形にしていく過程には興味がわきました」、「自分のアイデアを商品にして作っていく会社って面白そうだなって思いました」と、それぞれに内容を消化し、得るものがあった様子だった。
「情報ビジネス科では、『起業』というのもテーマになります。自分で会社を興すというのは、もちろんそれなりのハードルがあります。ただ、それを『実現できるもの』と捉えるか、『非現実的なもの』と捉えるかで全然違うんです」と佐藤教諭が説明する。「それを『やれる』とまでは思わなくても、身近にあるものなんだなと認識できることで、ひとつの選択肢になればいい。その意味で、こうした授業には大きな意味があると思うんです」と授業の意義を説明した。

「野球を知らない子がほとんどなので、そのあたりは懸念でしたけど、その都度、説明しながら、面白がってもらえたのかなとは思います」と佐藤教諭。マーケティングの授業を通して、野球を知らない生徒たちと、フィールドフォースとがつながった瞬間だった。
佐藤教諭は続けて、「野球部の方も、少ない人数なだけに、細かな部分を教えることが主になっています。『こういう部分を意識づけできたら、自然に技術が身につくんじゃないかな』という『痒いところ』に手が届く商品づくりには、いつも感心しています」とエールを送り、「(授業を)来年もぜひ」と提案。「準備してきたつもりでも、やっぱりいざやってみると、難しいですね…」と話していた鈴木も、「私でよければいつでも」と、次回の約束を交わしたのだった。